『週刊東洋経済 – すごいベンチャー100 2024年最新版(2024/9/21・9/28合併号)』では、AIなどの分野での大型資金調達が活発に行われている一方で、成熟したベンチャー企業の資金調達環境が厳しくなり、選別が進んでいる様子が紹介されています。
さらに、成長を目指すためのM&Aなど、IPO(Initial Public Offering)に限らない出口戦略の多様化も進展しています。
ただし、資金調達に成功し、出口戦略を模索する段階に至る前に、資金調達戦略の誤りが資金調達自体の失敗につながる可能性を考慮する必要があります。
この記事では、スタートアップ企業が資金調達で陥りやすいポイントと、その解決策について解説します。
スタートアップ企業が資金調達で間違えやすいポイントとは?
スタートアップ企業が資金調達で間違えやすいポイントは大別して3つあります。
- 準備不足
- コミュニケーションの失敗
- 資金調達の誤り
スタートアップ企業が資金調達で間違えやすいポイント1:準備不足
ピッチデッキの不備
ピッチデッキ(Pitch Deck)とはスタートアップ企業が投資家に対して自社の事業内容や成長戦略を説明し、資金調達を目的としてプレゼンテーションを行う際に使用するスライド資料のことです。
スタートアップ企業の評価にピッチデッキは大きな影響をもたらします。優れたピッチデッキの作成が資金調達のスタートラインです。
創業メンバーのスキルと経験の強調不足
投資家からの信頼醸成には創業メンバーのスキルと経験の評価が大切です。
創業メンバーのスキルと経験を力強く強調してください。
プロダクト・マーケット・フィットの検証不足
プロダクト・マーケット・フィット(PMF)とは、プロダクトがマーケットのニーズに適合している状態のことです。
PMF検証が不足していると判断されると、投資家は出資に強いリスクを感じます。
不適切な財務予測
楽観的すぎる財務予測を提示することで投資家から信頼を失うかもしれません。
現実的でデータに基づいた財務予測の提示が必要です。
成長戦略の欠落
成長戦略が明確でない場合、投資家は企業の長期的な成長可能性を疑います。
スタートアップ企業が資金調達で間違えやすいポイント2:コミュニケーションの失敗
資金調達には投資家との信頼関係の構築が必須です。信頼関係構築に向けての熱意ある努力が求められます。
スタートアップ企業が資金調達で間違えやすいポイント3:資金調達の誤り
タイミングの誤り
PMF検証や製品開発が不十分な段階で資金調達を急ぐと、投資家の圧力により不利な条件を受け入れなければならないリスクが高まります。適切なタイミングでの資金調達が必要です。
必要資金額の誤り
過剰な資金調達は株式の希薄化など投資家からの圧力増を招くことになりますが、過少な資金は不安定な事業運用につながります。
市況の無視
資金調達は経済状況に大きな影響を受けます。市況を無視した資金調達は、資金調達の失敗をもたらすかもしれません。
経営の健全性維持に資金調達管理が影響した事例
続いて、経営の健全性維持に資金調達管理が影響した事例を3つ紹介します。
1. 資金の過不足が成長を阻害する – WeWork
コワーキングスペース企業のWeWorkは巨額の資金調達を行い急成長しましたが、過度に膨らんだ評価額に対して実際の収益性が伴わず、最終的にIPOを延期する事態に至りました。
この事例は資金を多く調達しすぎた結果、成長のスピードを維持できずに評価が下落した典型例です。
参考:CENTURY FINANCIAL 「The Downfall of WeWork: A Tale of Ambition and Missteps」
2. 株式の希薄化による既存株主の権益の低下:Tesla
2008年、Teslaは資金調達の過程で新株を発行しましたが、その際に創業者であるイーロン・マスクの持ち株比率が下がり、一時は外部投資家の影響力が大きくなる懸念がありました。
しかし、マスクはその後のラウンドで慎重に資金を調達し、創業者としての支配権を維持しました。この事例は、株式の希薄化を慎重に管理する重要性を示しています。
参考:Investopedia 「The Story Behind Tesla’s Success (TSLA)」
参考:Institute for New Economic Thinking「Musk and Tesla: Compensation or Control?」
3. 投資家との関係管理:Snapchat
Snapchat(現:Snap Inc.)はIPO時に通常の株式ではなく議決権のない株式を一部の投資家に発行しました。
これは創業者が経営権を強固に保ち、外部の圧力から自由な意思決定を行うための戦略的な措置でした。この事例では適切な資金調達戦略により創業者のビジョンが維持された良い例となっています。
参考:IR magazine「Snap IPO will see shareholders have no voting rights」
スタートアップ企業が資金調達時に必要な3つの対策
スタートアップ企業が、先に述べた間違いを回避するための対策を以下に示します。
- 準備不足に対する対策
- コミュニケーションの失敗に対する対策
- 資金調達の誤りに対する対策
スタートアップ企業のための資金調達対策1:準備不足に対する対策
魅力的なピッチデッキの作成
製品やサービスの市場性、ビジネスモデル、成長戦略、収益化計画を明確かつ簡潔に伝えるために、データに基づくイビデンスを用いましょう。製品やサービスの市場性を具体的に示すことが必要です。
また、ストーリーテリングを活用してビジョンを伝えることも有効でしょう。
創業メンバーの強みを強力にアピール
創業メンバーのスキルや実績を具体的に説明し、成功を導くコミットメントを強調しましょう。
PMF検証の強化
MVP(minimum viable product )とは、最小限の機能を備えた製品の初期バージョンのことです。MVPをPMF検証の強化に活用することができます。
MVPの主な目的は以下のとおりであり、これらによってMVPをPMF検証の強化に活用することが可能です。
- アイデアの実現可能性を少ない時間と労力で実市場でテストすること。
- ユーザーフィードバックをできるだけ早く受け取り、製品を改善すること。
- 大規模な開発に多くのリソースを投資する前に、アイデアを検証すること。
また最近はMVC(Minimum Viable Community)を活用する事例も出てきました。
MVCの主な目的はMVPの製品中心の考え方とは異なり大規模な投資を行う前に、最小限の実際のユーザーからフィードバックを得ることでPMF検証を強化することです。
現実的な財務予測
現実的な財務予測を作成するために、実績データに基づいて収支予測を作成しましょう。
また、シナリオ分析やシミュレーションの手法を用いて、最悪の場合のシナリオにも備えた予測を提示する必要があります。
成長戦略の明示
具体的な成長目標やKPIを設定することで、どのように市場拡大や新規顧客獲得を実現するかの具体的な戦略の提示が必要です
スタートアップ企業のための資金調達対策2:コミュニケーションの失敗に対する対策
投資家との長期的なパートナーシップの構築のために投資家と定期的にコミュニケーションし、進捗や課題を共有しましょう。
また、ネットワーキングイベントやピッチコンテストに参加し、積極的に投資家との関係を構築する必要があります。
スタートアップ企業のための資金調達対策3:資金調達の誤りに対する対策
適切なタイミングを見極める
PMF検証を強化したうえでの資金調達をおすすめします。
また、可能であれば資金調達の前の優良顧客や初期収益の獲得が有効です。資金調達時点の市況を正確に理解し、タイミングをはかりましょう。
調達資金の過不足
短期・中期の具体的な運営計画と資金需要を明確にし、過剰な資金調達や不足のリスクを回避しましょう。
また、資金用途ごとの具体的な計画を用意し、投資家への説明責任を果たすことが必要です。
スタートアップ企業が資金調達戦略:まとめ
スタートアップ企業が資金調達戦略を誤らないことが大切な理由は、資金調達の方法やタイミングが、その企業の成長スピードや持続可能性に大きな影響を与えるからです。
誤った資金調達は既存株主の利益を損ない、信用棄損につながるリスクがあります。必要な資金を適切なタイミングで調達し株式の希薄化を管理しつつ、投資家との良好な関係を維持することが、スタートアップの成功の鍵となります。